Paul Reed Smith ”Sweet Switch”の真実(と噂話)

Paul Reed Smith Sweet Switch

当ブログをご覧頂いている皆様はPaul Reed Smith(PRS)に搭載されている「Sweet Switch(スイートスイッチ)」をご存知でしょうか?

Onにする事で高音域が削られ中音域が前に出た「ローファイ」な音になる、文字通り音を「甘く」させるプリセットトーンのようなスイッチで、1991年までのPRSにはこのスイッチがついていましたが、以降はオーダー品や限定モデルでしか搭載されることがなくなりました。

僕自身、この回路はコンデンサと抵抗によるローパスフィルターだと思っていましたが、とあることがきっかけで調べた所全く違うことが判明。

今回はこの「Paul Reed Smith Sweet Switch」がお題です。

Paul Reed Smith (PRS) Sweet Switch のブラックボックス

事の始まりは「PRSのスイートスイッチをコイルタップに変えたい」とのご依頼から。初期PRSに付いている独立したミニスイッチではなく、近年のカスタムモデルに付いている「Tone ポットのPush-Pull」でスイートスイッチがOnになるタイプでした。 前述の通りコンデンサと抵抗が取り付けられていると思いつつ空けてみると、何やら不可解なブラックボックスが付いているではありませんか。回路をシンプルにするための何かだろうと思いながら取り外し〜コイルタップへ変更。これ自体は一般的な配線の改造です。

ただ、付いていたブラックボックスが気になる。

気になる。。

気になる。。。

Paul Reed Smith Sweet Switch PCA EPA756-RC

※コレ、側面にPCA EPA756-RCとプリントされています。

こうなればトコトン調べます!

Paul Reed Smith (PRS) Sweet Switchの動作と詳細

冒頭にある通りスイートスイッチは音色をローファイにするスイッチですが、元々これはカルロス・サンタナの要望で作られたとの事。 1980年代当時、なが〜いシールドを使ってライブをこなしていたサンタナですが、夢の最新機器「ワイヤレスシステム」を導入します。

そして何が起こったか。

ギタリスト&ベーシストの方々は経験したことがあると思いますが、シールドが長くなると(良くも悪くも)音質が劣化し、特に周波数が高く劣化し易い高域が削られた甘い音になります。そして、普段はなが〜いシールドを通った「劣化した音色」で慣れていたサンタナがワイヤレスを導入した所、一気に今までとは違ったクリア&ハイファイな音色になってしまい、昔ながらの音色を出すため「ローファイに出来る機能」としてこのスイッチが誕生しました。

さらに驚くべきはその発想で、通常はトーン回路のようにコンデンサでイコライジング(高域をカットして音をモコつかせる)しようと考えそうですが、なんとPaul Reed Smithは「なが〜いシールドを通った音の再現」を試みました。

※~1991までのSweet Switchが付いたPRSは「ロータリーPUセレクター・マスターボリューム・Sweet Switch」のコントロールでToneが付いておりません。

ここで登場するのがあのブラックボックス。あのパーツはコンデンサではなくDelay Line(遅延線)と言う「電気信号を遅らせる」為のパーツとなります。なが〜いシールドを通る事で、高域の劣化と合わせて極僅かな電気信号(音)の遅延が生まれ、それをDelay Line(遅延線)で再現することで、ワイヤレスを繋いでもSweet Switchで「ローファイ」な音色にする。

まさしくシールドをシミュレートしたこの考えはあっぱれとしか言えません。

ワイヤレスが身近な物となった現代では、ワイヤレスシステムの機能の一つとして「シールドを通って劣化した音色を再現する機能」が付いた商品もありますが、PRSはこれを誰よりも早くギター側のスイッチで実現していたんですね。さらに言うなれば、これはデジタルなイコライジングではなくアナログな電気回路で作ったからこそ、「半止めワウのような甘い音」と形容される独特の音色になり、今でも愛用される方が多いのでしょう。

数値として書きますと、一般的にギターに使われるシールドケーブルの特性インピーダンスは50Ω~75Ωで約40.5Mのシールドを電気信号(音)が通る事で、約135ナノ秒(0.000 000135秒!! = 10億分の135秒)の伝達の遅延が起きます。そして、初期PRSに使われているData Delay Devices社のDelay Line(型番1513-135Y)は約135ナノ秒伝達を遅延する。ピッタリですね。なお、現在のPrivate Stock等に付いているスイートスイッチは、PCA社のEPA756-RCというDelay Lineが使われており、電気信号の遅れは約150ナノ秒(10億分の150秒)と若干長くなっております。

※数値を参考にしましたが、書いている本人はなんのこっちゃです(小声)

が!ザクッとまとめてしまえば「10億分の数百秒の電気信号の遅延」。これを人の耳で聞き分けられるのかは分かりませんので、伝達の遅延に加えて、Delay Line(遅延線)と言う「余計な電気回路」を通る事で音質が劣化する事も見越して狙った音になったのでしょう。

あっぱれ(二度目)

Paul Reed Smith (PRS) Sweet Switchの実用性

正直に申し上げますと、この機能(Sweet Switch)が現代に求められる音色・演奏性にマッチしているかと言われれば疑問符が付きます(あくまで私個人の意見であり、もちろん使われている方も大勢いらっしゃいます)し、今回Sweet Switchのタップ化をご依頼頂いたお客様のように、「Sweet Switchは付いているけれど使われない」と言う方がいらっしゃるのも事実です。

しかしながら、昔ながらのPRSファンの方にとっては「使い勝手」や「音色の云々」ではなく【 Sweet Switchが付いているだけでテンションが上がる 】物であり、これも理屈や機能性だけでは語れないギターの楽しみの一つですね。

最後になりましたが、Sweet Switchの改造と言う貴重なご依頼頂き、写真撮影や記事掲載もご快諾頂いたオーナー様にこの場を借りてお礼申し上げます。

ロッキン名古屋栄店 向吉

※ブログを書くにあたって出来るだけ正確な内容をお伝え出来るように複数のソースを参考にしておりますが、「サンタナがシールド~ワイヤレスに切り替えた為に作られた点」は確証が有りませんので、フォーラムで確認出来た内容をそのまま記載しております。年代的にも仕様的にもあながち大外れな内容ではないと考えておりますが、SantanaがSweet Switch付きのPRSをシールドを使って弾く写真も多数見られます。Paul Reed Smith社に確認を取ったものの詳細は判明しませんでしたので、あくまで「噂話」程度でお読み頂ければ幸いです。

参考文献①:http://www.vintagerocker.com/forum/showthread.html?13847-How-a-Sweet-Switch-really-works

参考文献②:http://www.vintagerocker.com/forum/archive/index.html/t-17272.html

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