1960年代のGibson Les Paul Custom 徹底調査

Gibson Les Paul Custom

1960年代後期のGibson Les Paul Customを3本同時にお預かりさせて頂きました。なかなかこんな機会は巡り会えませんので、それぞれのギターを写真を交えて徹底調査致します!

そして、最後には衝撃の結末が…

お預かりさせて頂いた3本のレスポールカスタム

委託さん

委託さん

アイちゃん

アイちゃん

不明君

不明君

[左側]→使わなくなったギターを売却したいというご相談から委託販売でお預かりしているLes Paul Custom。以下「委託さん」と呼びます。

[真ん中]→全体調整&クリーニングの為にお預かりさせて頂いたLes Paul Custom。こちらはGibsonロゴにiドットが有るので「アイちゃん」

[右側]→1960年代~1970年代頃に製造されたと思われるものの詳細が分からず、年代確認のご依頼でお預かりしたLes Paul Custom。年代不明という事で「不明君」

Gibson Les Paul Custom の生い立ち

発売~1957年迄

1954 Les Paul Custom

1954年型のLes Paul Custom(写真は復刻モデル)

1952年に発売されたGibson社初のソリッドボディ・エレキギター「Les Paul Model」、二年後の1954年にその上位機種として「Les Paul Custom」は誕生しました。エレキギターの黎明期に当たる当時はまだハムバッキング・ピックアップが発表されておらず、Les Paul ModelはメイプルTop&マホガニーBackのボディにP-90シングルコイル✕2、Les Paul Customは1ピースマホガニーボディのフロントにAlnico 5(L-5など当時の高級機種専用ピックアップ)&リアにP-90が搭載されています。

1957年以降

1959 Les Paul 3P.U

3P.Uのレスポールカスタム(復刻版)

そして1957年にハムバッカーが発表されると、Les Paul Modelは2ハムバッカーPU、Les Paul Customは3ハムバッカーPU仕様に変更(極僅かながら2P.U仕様のカスタムも存在するようです)され、紆余曲折を経て1960年(最終は1961年)にレスポールモデルはSGシェイプへと姿を変えます。ここで所謂「オリジナル・レスポール」は幕を閉じるものの、市場からのラブコールによって1968年にレスポールの姿が再生産されます。

今回お預かりさせて頂いた三本はこの「再生産された1960年代後期のレスポールカスタム」。前置きが長くなりましたが、年代別の特徴のご案内と、過渡期ならではの仕様の違いをご紹介させて頂きます!

68年以降のレスポールカスタムの主な仕様変遷

1968年に再生産されたレスポールカスタムは、〜1960年までの「1ピース・マホガニーボディ」ではなく「メイプルTop&マホガニーBack」ボディです。

1968年製レスポールカスタム(再生産スタート時の姿)

  • iにドットが有るGibsonロゴ
  • 1ピースマホガニーネック
  • ロング・テノン(ディープジョイント)
  • スクエア・ウインドウのナンバーステッカーP.U
  • メイプルTop&1PマホガニーBackボディ
  • ワイヤー有りのABR-1ブリッジ

1969年

  • iのドットが無いGibsonロゴ
  • 3ピースマホガニーネック
  • ショートテノン(ショートジョイント)
  • TトップのナンバーステッカーPU
  • メイプルTop&マホガニー材の間にメイプルを挟んだ「パンケーキ」構造のボディバック
  • ヘッドサイズの大型化

1970年

  • ヴォリュート付ネック
  • ヘッド裏のMade in USAスタンプ

1975年

  • パテントナンバー刻印PU
  • 3ピースメイプルネック

1976年

  • ナッシュビルTune-O-Maticブリッジ
  • 「マホガニー」ボディバック

1979年

  • iにドットが有るスリムなGibsonロゴ

1982年

  • ヴォリュートの無いマホガニーネック

※1969年以降のスペック変更はLes Paul Customに限らず大半のGibson製品に共通した仕様変更です。これらは一斉変更ではなく順次変更されているため、この年代は様々なスペックが入り交じります。

3本のGibson Les Paul Customの詳細

3本のレスポールカスタムの詳細を徹底比較&解析していきます!

ヘッドの形

委託さんヘッド

委託さん

アイちゃんヘッド

アイちゃん

不明君ヘッド全体

不明君

委託さん&アイちゃんに比べて不明君は雰囲気が違う気がしますね。

2、ロゴのアップ

委託さん

委託さん(iのドット無し)

アイちゃん

アイちゃん(iのドット有り)

不明君

不明君

アイちゃんと不明君はiにドットが有りますが、字体や雰囲気はアイちゃんと委託さんが同じです。

3、ヘッド裏

委託さんヘッド裏

委託さん

アイちゃんヘッド裏

アイちゃん

不明君ヘッド裏

不明君(3ピースの継ぎが確認出来ます)

シリアルナンバー:委託さんとアイちゃんが69年で不明君は68年
ペグ:委託さんとアイちゃんがワッフルバックのKluson 501VX、不明君は後年のGroverペグ。
ネック:委託さんと不明君が「3Pネック」、アイちゃんは「1Pネック」

4、コントロールキャビティのルーティング(形状)

委託さんキャビティ形状

委託さん

アイちゃんキャビティ形状

アイちゃん

不明君キャビティ形状

不明君

これは各自違いがありますが、不明君は全体的に削り方が大きいようです。

5、内部から見たボディ

委託さんボディ内部

委託さん

アイちゃんボディ内部

アイちゃん

不明君ボディ内部

不明君

委託さんとアイちゃんは1Pマホガニーバック、不明君はマホガニー材の間に薄いメイプルを挟んだ所謂「パンケーキ」構造のボディバックです。良く見ると配線穴の位置&形状も異なり、委託さんとアイちゃんは先に配線溝を掘ってからトップと接着する為、配線穴の形状が「四角」、不明君は接着した後にジャックの穴からロングドリルでトグルスイッチまで貫通させている為、配線穴は「丸」です。

7、ネックジョイント(フロントピックアップキャビティ)

委託さんネックジョイント

委託さん

アイちゃんネックジョイント

アイちゃん

不明君ネックジョイント

不明君

アイちゃんはネックの中子がフロントピックアップの下まで来たロング・テノン、委託さんと不明君はトランジション・テノンです。(ピックアップキャビティからネックが見えないタイプをショートテノンとして区別するため、あえてショート・テノンではなくトランジション・テノンと呼びます)

8、フロントピックアップ

委託さんフロントピックアップ

委託さん

アイちゃんフロントピックアップ

アイちゃん

不明君フロントピックアップ

不明君

ピックアップは3本全てナンバーステッカードを搭載していますが、裏面を良く見るとアイちゃんと委託さんのネジは「プラス」、不明君のネジは「マイナス」です。これもこの時期の違いで、プラスビスは1968年頃まで(スクエアウィンドウ期)、マイナスビスは1969年頃(T-Top期)から採用されています。

※マイナスビスのスクエアウィンドウなど、混在しています。

9、リアピックアップ

委託さんリアピックアップ

委託さん

アイちゃんリアピックアップ

アイちゃん

不明君リアピックアップ

不明君

ヘッドの大きさ – 上部

委託さンヘッドトップの幅

委託さん

アイちゃんヘッド上側の幅

アイちゃん

不明くんヘッド上側の幅

不明君

不明君のヘッドが明らかに大きいのが分かります。

ヘッドの大きさ – 下部

委託さんヘッド下側の幅

委託さん

アイちゃんヘッド下側の幅

アイちゃん

不明君ヘッド下側の幅

不明君

番外編 – T-Top

不明君フロントピックアップTトップ面

不明君フロントピックアップ

不明君リアピックアップTトップ面

不明君リアピックアップ

不明君はピックアップカバーが外されている為、ボビン上部の「T」の文字がはっきりと確認出来ます。これが所謂1969年頃からの「T-Top ナンバーステッカーP.U」で、このTのマークは1975年頃にパテントナンバーがステッカーから刻印されるようになってからも引き継がれます。

あれ!?一本だけ…

勘の良い方なら、一本だけ違和感を感じましたでしょうか!?それもそのはず、お預かりした3本中の一本「不明君」が他2本に比べてなんだか不自然なスペック。でも、ヴォリュートもMade in USAの記載も無くシリアルナンバーは68年頃。この時点で頭の中は「???」です。

もう一度をよ〜く観察してみると…

あれ??

  • ヘッドのサイズが大き過ぎる!
  • 「メイプル」3Pネック!(ネックジョイントの写真をご確認下さい)
  • ネックジョイント付近の塗装が上塗りされている!

なんと、、

ヘッドの大きさ&Gibsonロゴから突板は1980年代頃の物と推測される為、「不明君」は70年代中期頃(恐らく’75~’76頃)のレスポールカスタムを、80年代以降にネック交換し、60年代風シリアルを刻印したギターと考えられます。

※Gibsonロゴがシャープになってiドットが復活するのが1979年頃、1983年頃からヴォリュート無しのマホガニーネックに戻る為、1979年~1982年頃のネックのヴォリュートを削ったものではないかと推測されます。

まとめ

1960年代のギターとしてお預かりさせて頂いた3本のLes Paul Customは、結果的に

  • ほぼ1968年仕様のまま1969年初期に製造された「アイちゃん」
  • 1969年中期頃に製造された「委託さん」
  • 1970年代のボディに80年代のネックが付いた「不明君」

となりました。

ギターは使っていれば必ず修理が必要になる為、大半の古いギターは様々な修理歴があるものの、ネックが交換されているセットネックのギターは極めて稀です。セットネックのネック交換はギター・リペアの中でもかなり大掛かりな作業で、ネックが大破してしまったもののよほど愛着があり復元したのでしょう。

「いつ」「誰が」「どこで」この作業を行ったのかは今となっては知る由も有りませんが、1970年代から少なくとも40年近くを、たくさんのギタリストの手に渡り、使われ、壊れ、直され、また使われて、今でもしっかり現役で使える不思議な1本。オリジナルとしての価値は皆無ながら、こんなギターの物語に思いを馳せるのもギターの醍醐味だと思いませんか?

 

※歴史的価値も高い大切なギターをお預かりさせて頂いた上で、写真撮影や記事掲載の許可まで頂いたオーナー様方、本当に有難う御座いました!この場を借りてお礼を申し上げます。

ロッキン名古屋栄店 向吉

 

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